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文庫本 罪の声

塩田 武士/著の推理小説『 罪の声 』を読みました。

この本を選んだのは、読者が選んだおすすめ推理小説ランキング で10人中3人の人がおすすめする作品にランクインしていたからです。

また数々の賞にランクインする評判の作品です。

作品のあらすじ

この本は、曽根俊也(そね としや)という男性が主人公の物語です。

テーラー(紳士服の仕立て屋)を営む曽根俊也は、ある日、自宅で父の遺品のなかからカセットテープとノートを見つけます。

カセットテープを聞いてみると、そこには『ギン萬事件』と呼ばれる未解決事件で脅迫に使われた音声が録音されていました。 しかもテープの声は俊也自身の声だったのです。

俊也は、父の代から親交のある堀田(ほりた)にカセットテープとノートのことを話して、これらが自宅にあることや父の事件への関与について調べはじめます。

いっぽう同じ時期に、大日新聞の記者、阿久津英士(あくつ えいじ)は、特集記事のために『ギン萬事件』の真犯人を求めて取材に奔走します。

やがて、曽根と阿久津が出会い『ギン萬事件』の真相が明らかになります。

真犯人を暴くミステリー要素に加え、事件に巻き込まれた人達の愛憎の物語でもあります。

感想

本作で印象深いのは何と言っても『ギン萬事件』の真犯人を定義したことでしょう。

定義という単語で表した理由は、作中の『ギン萬事件』というのが『 グリコ・森永事件 』という実際に起こった未解決事件を題材としているからです。

題材というか『グリコ・森永事件』をそっくりそのまま下地にしているので、作中には事実とフィクションが混ざっており、すべてが実際に起ったのではないかと錯覚してしまうほど上手に書かれていて衝撃的でした。

私は1976年生まれでグリコ・森永事件が起こったのは小学生のときです。 事件の概要や社会への影響は何となく覚えている程度で特別記憶している事や思い入れまではありません。 しかし、読み進めるうちに「あの『グリコ・森永事件』の犯人がわかるのか!?」という期待が膨らんできて、没頭して読んでしまいました。

グリコ・森永事件のことを調べたり復習してから読むと、とても楽しめる作品になるはずです。

むしろグリコ・森永事件の予備知識がないとダラダラと長いだけの作品に感じてしまうかもしれません。 実際長編小説ですごく長い気がしましたけれど、未解決事件の謎を解くには長い時間がかかるのは当然だと感じながら読んでいました。


物語の前半は『ギン萬事件』の真犯人の調査で、警察小説のように人間関係を洗い出して、怪しい人物を探っていきます。 主人公の曽根俊哉は身近な人から調査の話が広がっていく。阿久津は新聞記者としての取材力であったり過去の取材からつながりを見つけていきます。

こうした、調査活動のシーンだけを切り取れば地道な作業なので退屈な気がしなくもないですが、そんな倦怠感は物語終盤に事件関係者が明らかになったときに吹っ飛びました。 前段の内容はこのための伏線だったのかと思えましたし、最後の最後に事件関係者が発した「奮い立った」というセリフは発した本人に加え読者へのカタルシス(※)と感じました。

(※) カタルシスという言葉は、「心の中に溜まっていた澱(おり)のような感情が解放され、気持ちが浄化されること」を意味します。 引用元 -- 10分でわかるカタカナ語 第36回 カタルシス 筆者: 三省堂編修所


物語の後半から終盤は、曽根俊哉はじめ、事件に関わった人達のその後の人生を追った内容で心を動かされるストーリーです。

子どもの声を使った脅迫テープは全部で3本あって、曽根俊哉以外に2人の子どもが巻き込まれています。 俊哉以外に2人の子どもについては、ネタバレでも何でもなくグリコ森永事件でも子どもの声で録音された3本の脅迫テープが公開されていて作中の主幹と呼べる事柄です。

俊哉以外の2人の子どもは俊哉と異なる人生を歩んでいて、私は涙する場面もありました。

しかし、読後に事件の全体像を冷静に振り返ると、犯罪に子どもを巻き込んだ身勝手な大人への恨みや怒りのほうが強くなってきました。 テープの子どもたちは、何も知らずに大人から巻き添えを食らっただけなのです。

未解決事件の真犯人が明らかになりスッキリするいっぽうで、大人によって人生を良くない方向に変えられた子どもたちにはモヤモヤ感が残りました。

全体的には満足度の高い作品です。

おわりに

著者のインタビューも興味深いので、ぜひ一読ください。 『罪の声』作者が語る、昭和の未解決事件を“フィクション”として描いた理由

本作『罪の声』は同名で映画 になっています。

私は映画も観ました。原作の忠実度合いが大きいので原作を知らなくても問題ないです。むしろ原作を知っている方が話のつながりが省略されている場面が気になって、シーンがスキップされたように感じてしまいました。映画は原作を知らない知人と観ていたんですが、話の最後のほうは泣いてましたね。

コミック版も出ています。

罪の声 (講談社文庫) (ISBN: 978-4065148259)
満足度(最大星5つ)

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最終更新日: 2022年09月17日(土) / カテゴリー: 推理小説・映画