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東京創元社 文庫版 生ける屍の死

山口 雅也(やまぐち まさや)氏 の推理小説『 生ける屍の死 』を読みました。

この本を選んだのは、読者が選んだおすすめ推理小説ランキング で10人中4人の人がおすすめする作品にランクインしていたからです。

作品のあらすじ

この本は、グリンというパンク(※)青年が探偵役の物語です。 (※)「不良、青二才、チンピラ、役立たず」の意味

グリンが住むニューイングランドでは死者が蘇るという現象が起こります。 そんな異常現象のもと、霊園を経営する一族に遺産相続に関連して殺人事件が起こります。

霊園支配人の孫であるグリンも毒によって死んでしまうものの蘇ってしまいます。 グリンは死んだことを隠しながら自分の死とその他の殺人事件の真相を追います。

感想

わたしがこの本を読んで、いちばん心に残ったところは、読後に死生観について考えさせられたことです。

推理小説を読んだあと、本来であれば解き明かされた事象について「そうだったのか!」といった驚きや 「なるほど」といったロジックの美しさに感銘を覚えるはずが、 「私達は本当に生きているのだろうか?」と推理の中身とは無関係な考えが浮かんだのです。

本格推理小説の体をなした哲学書みたいです。

私が読んだ文庫版では解説の 法月綸太郎さん が”パラドックス”と言葉を出していましたが、 まさしく”死んでいるのに生きている”という矛盾したものがこの物語では矛盾せずに存在しています。 死者としての観点と生者からの観点が融合した立派な推理小説であり、生死を語る内容なのです。

さて本文を振り返ると、死人が生き返るという不思議な設定なのでゾンビが徘徊するSFで現実味の無い世界かと思いきや、 リアルな世界観が描かれていることに驚きました。 死者が生者と同じように振る舞える設定なのでリアルな描き方ができたのだと思います。

しかも筆致はまるで海外ミステリの訳書のようです。 舞台がアメリカのニュージャージーということで登場人物もアメリカ人が中心です。 登場人物の数も多くて人物の関係性を想像することが難しかったです。

謎解きに関しては本格ミステリのフルコースでして、密室、死体が消える、予告殺人など、多くの謎が展開される贅沢な内容になっています。

ひとつひとつの謎解きの論理を味わう余裕が無いといいますか、 全部ひっくるめての真相なので少々詰め込みすぎた感じはあるものの、 パズラー小説・新本格ミステリという言葉がぴったりで本格ミステリファンなら必読の1冊です。


本作は傑出の本格ミステリであり大変満足できるものでしたが、他人に勧めるかと尋ねられたら「いいえ」と答えます。 「なんだ。満足しているのに人に勧めないなんて矛盾してるじゃないか」と言われるのはもっともです。 この矛盾したことをうまく説明できそうにないのですが、推理小説としての物語を楽しむ素養が必要なんじゃないかと感じるのです。 国内海外問わずいくつもの"本格"推理小説を読んできた体験が効果を発揮しそうなのです。

「論理を知らないでは哲学はできないことについて」という記事 に「論理を知らないで哲学をやろうとするのは、フランス語を知らないでフランス文学をやろうとするようなものだ」と表現されていることが、そっくりそのまま本作にも当てはまりそうです。

「本格推理小説を知らないで生ける屍の死を読もうとするのは、フランス語を知らないでフランス文学をやろうとするようなものだ」と。

「ミステリが三度の飯と同じくらい大好きです」と言っている人 でも、「難しい」「挫折した」というコメントが出てきます。 単純にミステリが好きだけでは全部読むことができないのです。

物語後半に入るまでに忍耐力を要することも確かです。光文社の文庫版は上下巻それぞれ約400ページ。東京創元社の文庫版は約650ページもあります。

推理小説ならではの謎解きの開放感を手に入れるには、 期待感を持って我慢して読み続ける ことが求められるのでしょう。

おわりに

この記事冒頭に挿入した写真は東京創元社・創元推理文庫の文庫本なのですが在庫切れで新品では手に入りにくいので、新品なら 光文社から全面改稿された文庫本・上下 を買いましょう。

さらに2019年には光文社から 永久保存版も発売 されるほど、歴史に残る評価の高い作品です。光文社のサイトは永久保存版の特典がわからないのですが、 PR TIMES という プレスリリースの記事で特典を確認 できます。

生ける屍の死(上) (ISBN: 978-4334776732)
満足度(最大星5つ)

死人が生き返る設定のミステリ作品は 『七回死んだ男』 もおすすめです。

本作以外のミステリー小説や映画・ドラマ作品の感想文も書いています。 「推理小説・映画」の一覧ページ からご覧ください。

オススメ記事 観たい作品がありすぎる。推理・ミステリー映画を観るならU-NEXTがおすすめ


最終更新日: 2021年12月26日(日) / カテゴリー: 推理小説・映画